ファストファッション業界、コロナ影響は
新型コロナウイルスの感染拡大により、世界的にアパレル企業の経営難が深刻化しています。ロックダウンや外出自粛を受けて実店舗への来客数が減り、販売の低迷だけでなく経営破綻を起こすブランドも現れ始めました。国内でも、上場企業である「レナウン」の民事再生の申請や、ギャル系ファッションで知られる「セシルマクビー」の全店舗の閉鎖発表など、有名企業の苦戦がたびたび報じられています。
同様の影響は、2000年代半ばより全世界で台頭した「ファストファッション」業界にも波及しています。
ファストファッションは製造から小売りまでを一貫して行うことによるコストダウンと、短サイクルでトレンドを抑えた商品を大量生産・販売するモデルで急速に普及しました。しかしながら、新型コロナ感染拡大の禍中では他のアパレルブランドと同じく、店舗への客足が遠のく逆境に立たされていると言えるでしょう。
▼こちらは参考記事です。
ファストファッション市場の5ブランドを調査。ユニクロやZARAの戦略とデジタルユーザー数を探る
https://manamina.valuesccg.com/articles/6122019年10月をもってフォーエバー21が日本市場から撤退しました。ファストファッション企業がECの成長著しいアパレル市場を生き残るには何をすべきなのでしょうか。5つのファストファッションブランドのウェブサイトとアプリを比較し、eMark+を用いてユーザー数の動向、ユーザー数獲得の施策などを分析してみます。
今回は、そんなファストファッション業界の3ブランドである「ユニクロ」「ZARA」「H&M」の、コロナ渦におけるECサイトの集客状況を分析・比較していきます。3つのブランドのWebサイト、および公式アプリのアクセス(UU数)の推移から、過去半年の集客構造の違いについてお話します。
ファストファッション3ブランド、春~夏のEC集客動向は
まずは、ユニクロ・ZARA・H&Mのファストファッションの3ブランドについて、それぞれのスマホアプリへのアクセス数が、直近の半年間でどう推移しているかというデータを見ていきましょう。
ユニクロのスマホアプリのMAU推移(集計期間:2020年3月〜7月)
H&M、ZARAのスマホアプリのMAU推移(集計期間:2020年3月〜7月)
スマホアプリのアクセスのグラフを見ると、ZARA・H&Mの2ブランドと異なり、ユニクロの集客数が4月~6月にかけて大きく伸びていることわかります。
ZARAは40万~50万UU、H&Mは60万~70万UUほどが平均的な月次のアクセス数で、多少の上下はあれど、春先から夏にかけてのアクセスは横ばいの傾向です。一方で、ユニクロは元々1,100万ほどだったUUを、最大1,500万UUほどまでさらに大きく増加させることに成功しています。
元来、アパレルのECサービスは春から夏にかけてゆっくりアクセスが下がり続け、8月頃には集客が底をつく季節トレンドがありますが、ユニクロのみがそのトレンドに逆行した動きをしていると言えるでしょう。春先から販売店の集客が全体的に落ち込んでいることを加味すると、全体の販売戦略では3つのブランドにおいて、ECの集客状況が向上しているユニクロの独り勝ちと言える状況です。
ユニクロのWebサイト・アプリの利用者層の変遷
ここ半年のEC販売において独走状態とも言えるユニクロの集客状況について、もう少し内容を掘り下げていきましょう。
全体的に好調なユニクロですが、半年の推移を見る限り、Webサイト(PC・スマートフォン合算のアクセス数)とスマホアプリのアクセスの変遷には、若干の差異があることがデータから見て取れます。
両データを比較すると、まずはコロナの影響で外出自粛が本格化した3~4月にかけて、Webサイト(上図・青色の折れ線グラフ)へのアクセスが先行して大きく伸びていることが見て取れます。その期間、ユニクロのアプリ側の利用者数はほぼ横ばいですから、Webサイト側への集客構造に対して何かしら特異な動きがあったと推測できます。
ユニクロを運営するファーストリテイリングの2020年8月期 第3四半期決算短信を見る限りでは、コロナ禍で3~5月にかけて既存販売店の売上が落ち込む中、デジタル広告やテレビCMによるオンラインサイトへの誘導を強化していたことが伝えられています。
特に、自粛期間中は多くの実店舗で臨時休業をとらざるをえなかった状況もあり、広告を投じたEC販売へ消費者を誘導する戦略に、素早くスイッチしたことがわかりますね。
自粛明けからのユニクロ躍進の立役者は「アプリ」と「マスク」?
先ほどのグラフを見ると、自粛明けの5~6月にかけてはユニクロアプリの利用者数が増えていますが、これはユニクロのアプリの所持者と利用率がそれぞれ増加していることが要因です。
以下は、ユニクロのスマートフォンアプリをインストールしている人の推移のグラフです。2~4月は横ばいだった所持者数が、5月から右肩上がりに増えていることが見て取れます。
また、以下の3ブランドのスマホアプリのアクティブ率(一定期間内にユーザーがアプリを起動しているかどうかの割合)のグラフを見ても、特に、5月からユニクロのアプリの利用率だけに大きな伸びが見られます。
この時期(正確には2020年5月15日から)、ユニクロは「アプリ会員特別限定価格」での商品販売を開始しています。店舗で商品を購入する際に、レジにてアプリ会員IDをバーコードスキャンすることで、通常価格よりもお得な値段で商品の購入ができる仕組みです。
こういった要因もあり、ユニクロアプリをインストールしているユーザー数は春先の2,300万から7月の2,400万という数値まで100万人弱の伸びを見せ、ユーザーの利用率についても10~15%ほどの改善が進むことになりました。スマホアプリを利用したユニクロの販売促進を進める戦略が当たっていると言えますね。
また、春先からWebサイト、5月以降はアプリと順調に流入を増やしてきたユニクロですが、双方で流入のピークを迎えたのが6月のことです。6月のユニクロWebサイトへの検索エンジンからの流入キーワードを見てみると、多くのアクセスが「エアリズムマスク」を求めたユーザーによるものだと見て取れます。
(キャプション)eMark+画面よりキャプチャした、ユニクロWebサイトの自然検索時の流入キーワードランキング(2020年6月、対象デバイス:スマートフォン)
「ユニクロマスク」「マスク販売予約」などの検索ワードが、流入のTOP10に7つもランクインする結果となっています。
エアリズムマスクは2020年6月19日の発売に際して、CM放送や各種メディアでも多数取り上げられており、話題性も高い商品ですね。丁度、マスクの品薄が緩和され始める前後という時期であったことからも、トレンドをしっかり押さえたユニクロの戦略によって、ユーザー数をさらに増やすことに成功しているようです。
まとめ
今回は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う、ユニクロ・ZARA・H&Mの3つのファストファッション企業への影響を比較しました。ファストファッションの半年間の動向を見てみることで、ユニクロが新型コロナの影響を受けながらも他の2企業とは異なり、巧みな販売戦略でECサイトへの集客拡大に成功していることが伺えます。
なお、まだこの時点(2020年8月現在)での数値には現れてきていませんが、H&Mも6月の決算発表にて「実店舗の閉鎖を急ぎ、デジタルでの販路拡大に注力する」ことを発表しています。また、ZARAに関しても、2021年までに参加ブランドの1,200店舗の閉鎖、EC比率を22年までに25%以上に拡大するとの発表がありました。
コロナ禍において、リアル店舗からECへと売り場を上手くスイッチする、もしくは役割を棲み分ける動きを採れる企業のみが、苦境に喘ぐこれからのファッション・アパレル業界の中で生き残っていけるのではないでしょうか。本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2020年2月〜2020年7月の検索流入データ
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
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