パンデミック襲来
史上最悪のパンデミック(感染症の世界的大流行)をご存じでしょうか?今から100年前、第一次世界大戦の終結にも大きな影響を与えたとされる「スペインインフルエンザ」。全世界で猛威をふるい、5億人が感染し、5000万人が死亡したとされています。日本では「スペイン風邪」と呼ばれ、国民の約半数が感染し、40万人近くがお亡くなりました。人類の歴史上、ペストやコレラなどの感染症により、パンデミックは数多く発生しています。
最近のパンデミックは何といっても新型コロナ感染症(COVID-19)です。瞬く間に全世界へ感染が拡大。感染拡大の影響を受け、生活や意識、仕事のあり方が大きく変わりました。世界的に感染を抑えることが優先され、政策的には通勤の機会を減らす方向に舵をきったことが、結果的に在宅勤務を根づかせ、自宅での在宅時間を増やしました。
同時にデジタル空間での交流が進み、インターネットを活用したオンラインミーティングが当たり前になりました。シンポジウムやセミナーも実際に会場へ行くのではなく、ネット上で開催される運びとなり、今まで以上に身近なものになりました。リアルでの関係が減ったこともあり、ネット上での仮想空間「メタバース」が国際的に注目されるようになり、国内でも広告代理店などのサービス業や小売りでの参入も広がってきました。
不安定な世界情勢と消費生活
仕事と衣料の関係ではテレワークが進み、スーツを着て出社する機会がへり、スーツの販売もコロナ前に比べて、6割近くまで落ち込んだ模様です。若者を中心に紳士服市場自体が減少する方向であることは間違いありません。ただ、会社員の作業着として愛用されてきたスーツです。着る機会や回数は減った一方で品質の良いものにこだわる男性が増えている傾向にあるようです。
生活や消費行動においてもコロナ禍で外出する機会が減ったためでしょうか、運動不足が日常となり健康志向が一段と高まりました。その影響からか、ノンアルコール飲料の市場が急速に拡大、あえてアルコールを嗜まない「ソバ―キュリアス」というノンアル生活が若者に支持されるようになりました。
同時に、ロシアのウクライナへの侵攻などによる不安定な世界情勢から資源高となり、原油価格の上昇による運送費の増大や穀物や肥料価格の上昇から、食品や日用品まで値上げが続き、消費者の防衛意識が一段と高まりました。100円ショップも相次いで銀座へ初出店するなど、「銀座100円ショップ」として話題になりました。
ただ、日常生活で積み重ねている節約志向ですが、旅行や高級ブランド品の購入などの需要は拡大する方向にあり、メリハリと工夫のある消費行動が見受けられます。最近の電気料金の上昇は著しく、少しでも光熱費を抑える工夫が求められています。住生活を例にすると、住設機器の市場では断熱性や強度に優れた高価格帯の「窓」が売れ筋のようです。地球温暖化による大型化する台風やゲリラ豪雨への対策ももちろんのことながら、夏のエアコン利用においても、販売価格が高くても電気代の節約で十分に元が取れ、人気を集めています。
VUCAの時代
近年、これまで人類が経験したことがないような変化が起こっています。新型コロナウイルスによるパンデミック、IT技術の大幅な進歩、気候変動・海洋汚染・深刻な環境破壊、欧米や日本を中心とした社会構造の変化(人口減少や高齢社会)、グローバル社会による複雑化する経済等々、将来を予測することが困難な状態が続いています。これをVUCA(ブーカ)と呼び、現在はまさしくVUCAの時代です。既存の社会における継続性が続かないケースも多く、生活様式や価値観が大きく変わりました。個人の変化は企業活動や行政、NPOなどへの影響も考えられ、事業や商品・サービスのあり方を驚く程、陳腐化してしまう可能性が高まっています。
VUCAとは、以下の4つの単語の頭文字から出来た言葉です。
V=Volatility(変動性)、U=Uncertainty(不確実性)、C=Complexity(複雑性)、A=Ambiguity(曖昧性)。元々はアメリカで軍事用語として使われてきました。東西冷戦後、国家間の問題が複雑化し、テロの脅威が増すなど軍事戦略を立てることが困難になったことから、従来の方式・戦術が通用しなくなった状況を指しています。
VUCAとビジネス
通常、ビジネスを行う思考法として、「PDCAサイクル」が用いられています。すなわち、計画(Plan)を立て、実行(Do)し、その結果を評価(Check)することで計画と結果に差異がないかを突き止め、その原因を改善(Act)することを繰り返すビジネスサイクルです。当初の計画の実現を必須とし、何度もサイクルを繰り返すことがポイントです。
ただ、VUCAの時代では想定外のことが起きる可能性が高く、事業の現場で何が現在起こっているかを正確に理解し、それに対応できるような意思決定を少しでも早く行うことが重要です。そこで、これもアメリカ軍からの発想である思考法に「OODA(ウーダ)ループ」があります。現状を観察(Observe)し、現在起きている状況を理解(Orient)し、決断(Decide)し、行動(Act)する一連の動きを繰り返して実行する構造のことです。環境の変化に合わせて、素早く柔軟な対応することが特徴です。
VUCAの時代に最も必要とする能力は何といっても情報収集力です。巷には情報が溢れかえっています。意味のある情報を選択できるか、埋もれていた真に重要な情報を探し出せるか、など有益かつ適切な情報を収集するためには判断力も大切です。また、情報を分析する力は日頃の積み重ねという実践で養うことができますが、一筋縄では解決できない問題や課題について、意思決定を行う力や実行力も養う必要があります。
スピード感を持って自らの頭で考え抜くことがVUCAの時代を生きる我々にとって必要不可欠なスキルであり条件なのです。
ヒット商品や長く愛されるブランドを支える重要なキーが「ネーミング」。良いネーミングとはどのようなものなのでしょうか。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏の寄稿により、ブランド価値を醸成する3つの力とネーミングの役割について解説します。
【関連】街とブランドの関係性 ~下北沢再開発から見た街のブランド価値
https://manamina.valuesccg.com/articles/1879お気に入りの街はありますか。昔ながらの風情や人情味のある街、都市計画で整備され高層ビルと街路樹が調和した街、再開発で新旧カルチャーが融合する街など、街の持つ個性やブランドイメージは、そこに住む人、訪れる人にも様々な影響を及ぼします。 広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏に、「街とブランドの関係性」を考察いただきました。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。